放熱シリコーンの種類と選定ポイント

■ 熱伝導率だけで選ぶと失敗する理由
放熱シリコーンを検討する際、最初に注目されがちなのが 「熱伝導率(W/m・K)」 という数値です。確かに熱伝導率は重要な指標ですが、実際の実装環境では、「カタログ上の熱伝導率が高くても、実機での温度が下がらない」というケースが少なくありません。
その理由は、放熱性能が単一材料の物性値ではなく、
- 接触状態
- 圧縮条件
- 塗布厚み
- 界面状態
- 経時変化
といった複数要素の組み合わせで決まるためです。したがって、「高い熱伝導率 = 最適解」ではないという点を理解することが、放熱材料選定の出発点になります。
■ 放熱シリコーンの主な種類
放熱シリコーンは用途や実装形態に応じて、主に以下の形態に分類されます。Momentive社の製品ラインアップも、これらをカバーしています。
1. 放熱グリース
放熱グリースは、TIMの中でも最も低い界面熱抵抗を実現しやすい材料です。
- 極めて薄い膜厚形成が可能
- 界面熱抵抗を最小化しやすい
- ねじ止め構造などと相性が良い
グリースは流動性を持つため、締結時の圧力によって界面の微細な凹凸を埋めやすく、結果として実効接触面積を最大化しやすいという特長があります。適切に設計された場合、同じ熱伝導率のシート材よりも実装後の温度が低くなるケースも多く見られます。一方で、
- 長期使用時のポンプアウト(押し出し)現象
- 温度サイクルによる流動・偏肉
- 締結圧依存性が高い
といった課題もあり、材料選定だけでなく、締結構造・圧力設計・使用環境まで含めた検討が不可欠です。
2.放熱ギャップフィラー
放熱ギャップフィラーは、比較的大きなギャップを埋めながら放熱させたい場合に使用されます。
- 数百µm〜数mmのギャップ吸収が可能
- 部品高さばらつきが大きい構造に有効
- 自動ディスペンスや印刷工法にも対応
例えば、
- 部品高さが複数混在する基板
- ヒートシンクとの距離にばらつきがある構造
- 機構公差が大きい筐体設計
といったケースでは、グリースやシートでは対応が難しく、ギャップフィラーが有効な選択肢になります。一方で、ギャップフィラーは材料設計の自由度が高い分、
- 粘度設計
- チキソ性(せん断で流れるか)
- 自己レベリング性
- 垂れ・だれ特性
によって、塗布性・充填性・量産安定性が大きく変わります。ギャップフィラーは「構造ばらつきを吸収しながら放熱するための調整型材料」であり、材料選定と同時に、塗布工法(ディスペンス条件など)まで含めた検討が重要になります。
3.放熱接着剤
放熱接着剤は、放熱機能と部品固定を同時に担うTIMです。
- 放熱機能と接着固定を両立
- 部品点数削減・構造簡素化が可能
- 一度硬化するとリワーク性は低い
- 高信頼性構造(車載・産業機器)向け
ねじ止めやクリップ固定を不要にできるため、軽量化、部品点数削減、振動耐性向上といった設計メリットがあります。その一方で、
- 硬化条件(温度・時間)管理
- 接着強度と熱抵抗のバランス
- リワーク不可前提の設計
といった点を考慮する必要があり、材料は単なるTIMではなく構造材料の一部として扱う必要があります。放熱接着剤は「放熱と機械構造を一体で設計するための材料」であり、信頼性重視の製品設計に適したソリューションです。
4.放熱シート
放熱シートは、量産現場で最も広く使用されているTIM形態のひとつです。
- 厚みが規格化されており、工程管理がしやすい
- 打ち抜き加工・貼り付け作業が容易
- 量産性・作業性に優れる
シート材の最大のメリットは、膜厚があらかじめ規定されるため、実装ばらつきが管理しやすい点にあります。これは量産工程において非常に大きな利点となります。ただし、放熱シートでは
- 圧縮率(どの程度つぶれるか)
- 弾性率(どの程度の荷重が必要か)
- 圧縮後の実効厚み
が実効熱抵抗に大きく影響します。例えば、硬すぎるシートを選定すると、「十分に圧縮されず、界面空隙が残り想定より熱抵抗が大きくなる」といった現象が起こります。ゆえに、放熱シートは「使いやすい材料」だが、「圧縮設計とセットで最適化すべき材料」です。但し、量産ラインとの親和性が高く、工程安定性を重視する用途に適しています。

■ 本当に見るべき選定パラメータ
放熱設計で重要なのは、カタログに記載された単一の「熱伝導率(W/m・K)」の数値ではなく、実装後の状態でどれだけ低い実効熱抵抗を実現できるかという点です。実際の放熱性能は、材料物性だけでなく、実装条件・構造・工程条件を含めた「システム全体」で決まります。そのため、設計部門・製造部門が共通して注目すべき指標は以下のような要素になります。
1)硬度・圧縮率
硬度や圧縮率は、TIMが界面の微細凹凸にどれだけ追従できるかを決定づける重要な因子です。
- 界面への追従性
- 実際の接触面積
- 締結圧への依存性
これらに直接影響します。例えば、いくら熱伝導率が高い材料であっても、硬度が高すぎて十分に変形しなければ、
- 表面粗さを埋めきれない
- 微細な空気層が残る
- 実効接触面積が小さくなる
結果として、カタログ性能よりもはるかに高い界面熱抵抗を生んでしまいます。実務上は、
- 実際にかけられる締結圧はいくらか
- バネ・ねじ・筐体構造でどの程度の圧縮が可能か
- 長期使用で圧縮応力が緩まないか
といった点まで踏まえて硬度・圧縮特性を評価する必要があります。
2)厚み許容範囲
TIMの厚みは、放熱性能に直結する極めて重要なパラメータです。熱抵抗は基本的にR = t / (kA)(t:厚み、k:熱伝導率、A:接触面積)で表され、厚みが増えるほど比例的に熱抵抗が増加します。つまり、
- 実装時に何mmの厚みになるのか
- 圧縮後に実効厚みはいくらか
- 個体差・組付けばらつきでどの程度の分布が出るのか
を考慮せずに材料を選定すると、
- 試作評価では良好
- 量産品では温度が下がらない
といった乖離が容易に発生します。特にシート材やギャップフィラーでは、「公称厚み」ではなく、実装状態での実効厚み管理が重要になります。
3)粘度・流動性
グリースやギャップフィラーでは、粘度や流動特性が製造性を大きく左右します。
- ディスペンス時の吐出安定性
- 自動塗布時の糸引き発生
- 垂れ・だれ・はみ出し
- 充填不足・ボイド残り
これらはすべて、材料のレオロジー特性(流動挙動)と密接に関係しています。例えば、
- 粘度が低すぎる → 垂れやはみ出しが発生しやすい
- 粘度が高すぎる → 充填不良やディスペンス不安定
- チキソ性が不適切 → 印刷・塗布後の形状保持性が悪い
といった問題が起こります。つまり、放熱材料の選定は「熱性能」だけでなく、「工程適合性」の設計でもある」という視点が重要になります。
4)長期安定性
TIMは初期特性だけで評価すると、実際の製品寿命に耐えられない場合があります。本質的に重要なのは、
- 高温放置後
- 温度サイクル後
- 長期通電後
- 振動・機械応力負荷後
において、どれだけ熱抵抗が変化しないかという点です。実際の劣化メカニズムとしては、
- グリースのポンプアウト
- シートの圧縮永久歪
- フィラー沈降による熱伝導低下
- 接着界面の剥離
- 材料硬化による追従性低下
などが挙げられます。Momentive社の放熱材料は、初期性能だけでなく、経時変化後の安定性を重視した配合設計がなされている点が大きな特長であり、長期信頼性が求められる産業機器・車載用途で評価されている理由のひとつです。
5)電気絶縁性・難燃性
特に電源系・車載・高電圧系アプリケーションでは、放熱性能と同時に電気的安全性の確保が必須となります。設計時に確認すべき代表的な指標としては、
- 絶縁破壊強度(kV/mm)
- 体積抵抗率
- 誘電率・誘電正接
- UL94難燃性グレード
などが挙げられます。例えば、
- 高電圧近傍で使用するTIM
- 基板上の露出電極に接触する可能性がある箇所
- バッテリー周辺部品
などでは、熱だけでなく電気的信頼性・安全規格適合まで含めた材料選定が求められます。
放熱材料選定とは、-「数値スペックの比較」ではなく、「構造・工程・寿命条件を含めたシステム設計」である- という点に尽きます。Momentive社が単なる材料メーカーではなく、用途条件を踏まえた材料設計思想を持つサプライヤーとして評価されている理由も、まさにこの領域にあります。
■ 用途別の考え方(仮説)
放熱シリコーンは「万能材料」ではなく、用途ごとに求められる信頼性要件・環境条件・構造条件が大きく異なります。そのため、重要なのは「どの用途で、どのリスクを最優先で潰すべきか」を明確にしたうえで材料を選定することです。代表的な用途別の考え方を整理します。
パワーモジュール用途
IGBT、SiC/GaNパワーデバイスなどを搭載するパワーモジュールでは、単位面積あたりの発熱密度が非常に高く、放熱性能が直接的にデバイス寿命を左右します。
- 低界面熱抵抗
チップ〜ベースプレート間の熱抵抗がわずかに増加するだけでも、ジャンクション温度は顕著に上昇します。そのため、薄膜形成性・界面追従性に優れた材料設計が不可欠です。 - 高温環境下での長期安定性
125〜175℃といった高温連続使用条件下でも、硬化・分離・揮発・劣化による性能変動が起こらないことが重要です。 - 熱サイクル耐性
パワーデバイスはON/OFFによる温度振幅が非常に大きく、TIMが繰り返し膨張・収縮ストレスを受け続けます。圧縮永久歪の小ささやポンプアウト耐性が、長期信頼性を左右します。
車載電装品用途
車載電装品では、熱的要求に加えて、自動車特有の厳しい環境条件と品質規格への対応が前提となります。
- −40〜150℃超の温度サイクル耐性
寒冷地からエンジンルーム近傍まで、極めて広い温度範囲で使用されます。この中で物性変化が小さいこと、硬度・弾性の変動が少ないことが重要です。 - 長期信頼性(10年〜15年設計)
短期評価では問題なくても、長期間の圧縮保持・熱履歴を経た後でも熱抵抗が増加しない材料である必要があります。 - 工程ばらつきへの耐性
車載量産では、塗布量・締結トルク・部品公差のばらつきが一定範囲で必ず発生します。それらのばらつきを吸収できる材料設計であるかどうかが、実装現場では非常に重要です。
LED照明用途
LED照明では放熱性能に加えて、光学系への影響をいかに抑えるかが大きな設計課題となります。
- ブリードによる反射材汚染の防止
一部の材料では、低分子成分が滲み出すことで、リフレクタや白色反射部材が黄変・汚染する事例があります。これにより、照度低下や色味変化が発生します。 - 光学部品への影響低減
レンズ・封止材・拡散板に揮発成分が付着すると、ヘイズ増加や透過率低下を招きます。そのため、低ブリード・低揮発設計の材料が求められます。 - 熱と光の両立設計
LEDは温度上昇によって発光効率・寿命が顕著に低下するため、放熱性能と光学安定性を同時に満たす材料設計が不可欠です。
センサ・光学機器用途
センサ・カメラ・検査装置などの光学機器では、放熱以上に「汚染しないこと」が最重要条件になるケースも少なくありません。
- 低アウトガス特性
真空に近い筐体内や密閉構造では、わずかな揮発成分でもレンズ・ミラー・撮像素子に付着し、性能を大きく劣化させます。 - 材料揮発によるレンズ汚染防止
光学部品表面への分子レベルの汚染は、コントラスト低下・フレア増加・S/N悪化といった問題を引き起こします。 - 微小温度安定性の確保
高精度センサや測定機器では、数℃の温度変動が測定誤差に直結します。そのため、温度変動に対して熱抵抗が安定している材料、すなわち経時変化・圧縮変化が小さいTIMが必要になります。
■ 選定においてお伝えしたいこと
用途ごとに見ていくと分かる通り、放熱シリコーン選定において重要なのは、「高性能材料を選ぶこと」ではなく「用途ごとのリスクを正しく理解し、それに適合する材料を選ぶこと」です。
だからこそ、Momentive社のように幅広い製品群を持ち、用途別に細かく最適化された材料設計を行っているメーカーの存在価値が生きてきます。そしてAD-Chemi(安達新産業株式会社)は、単なる材料販売ではなく、
- 用途条件の整理
- 設計意図のヒアリング
- 工程条件のすり合わせ
- 評価方法の設計支援
まで含めた技術支援を通じて、「材料スペックだけでは導けない最適解」を提供しています。



