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放熱シリコーンの性能を守る保管・取り扱いの基本

2026年02月09日

同じ放熱シリコーンを使用しているにもかかわらず、

  • 評価結果が安定しない
  • 試作では良かったのに、量産で性能ばらつきが出る

このようなトラブルは、実は珍しくありません。そしてその原因の多くは、「材料の品質」ではなく保管・取り扱い条件に起因しています。放熱シリコーンは、単なる“接着・塗布材”ではなく、設計値を満たすために精密設計された機能材料です。つまり、「正しく使って初めて、カタログ通りの性能が出る材料」なのです。

■ 放熱シリコーンは「機能材料」

放熱シリコーンは、単なるペースト状材料ではなく、複合材料(コンポジット材料)として設計された高機能材料です。その性能は、単一成分ではなく、複数要素の精密なバランスによって成立しています。主な構成要素は以下の通りです。

  • 熱伝導フィラー
    アルミナ(Al₂O₃)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)などが代表例です。これらのフィラーは粒径分布、形状(球状・板状)、表面処理状態によって熱伝導ネットワークの形成効率が大きく変化します。単に充填率が高ければ良いわけではなく、「粒径分布設計」と「分散状態」が実効熱伝導率を決定づけます。
  • シリコーンポリマー(基材)
    熱伝導フィラーを保持しつつ、基材への濡れ性、追従性、長期信頼性を担うマトリックス成分です。分子量分布や架橋密度によって、粘度特性、流動性、圧縮後の復元性(ポンピングアウト耐性)、耐熱性が制御されています。
  • 各種添加剤(分散剤・チキソ剤・安定剤など)
    これらは量としては微量ですが、実際の取り扱い性・安定性を左右する極めて重要な成分です。分散剤はフィラー表面との界面制御を担い、チキソ剤はせん断時と静置時のレオロジー特性を制御します。安定剤は高温環境下でのポリマー劣化や相分離を抑制し、長期信頼性に寄与します。

■ 各成分状態が性能に与える具体的影響

放熱シリコーンの性能は、配合比だけでなく「状態管理」に大きく依存します。

  • フィラー分散状態と熱伝導率の関係
    フィラーが均一に分散している場合、材料内部に連続的な熱伝導パス(Thermal Path)が形成されます。しかし、沈降や凝集が起きると熱伝導ネットワークが途切れ、同じ材料でも実効熱伝導率が低下します。実務的には、カタログ値5 W/m·Kの材料でも、分散不良状態では3 W/m·K相当まで低下するケースもあります。
  • 基材粘度変化と界面熱抵抗
    粘度が変化すると塗布後の膜厚が変わり、結果として界面熱抵抗(Thermal Contact Resistance)が変動します。特にギャップ設計が数十µm〜数百µm領域の放熱設計では、粘度変動がそのまま温度上昇差として顕在化します。
  • レオロジー特性(チキソ性)とプロセス再現性
    チキソ性が崩れると、「自動塗布時の吐出量ばらつき」、「ダレ・盛り上がりの発生」「圧着後の広がり量変動などが発生し、「設計通りの塗布形状」が再現できなくなります。

■ 「見た目が同じでも性能が違う」という現象の正体

現場でよくあるのが、「見た目はいつも通り」「触った感じも特に違和感はない」
しかし・・・「測定すると温度が高い」というケースです。

これは材料内部で、

  • フィラーが部分的に沈降している
  • 撹拌によって空気を巻き込み、ボイド率が増加している
  • 基材の微妙な劣化により界面濡れ性が低下している

といった「目視では分からない変化」が起きていることが原因です。放熱シリコーンは、“配合設計された材料”であると同時に、“状態管理が性能を支配する材料”だと言えます。

■ 保管条件で注意すべきポイント

※具体的な数値条件(温度範囲・保管期間など)は、必ずMomentive社の技術データシート(TDS)および製品仕様書の指示を最優先してください。放熱シリコーンは、化学的には比較的安定な材料に分類されますが、「複合材料(フィラー高充填系)」であるがゆえに、温度履歴・重力・時間の影響を確実に受ける材料です。ここでは、現場で実際に問題になりやすい観点から整理します。

● 温度管理(温度履歴が材料状態を変える)

放熱シリコーンは、温度によって以下の物性変化が連鎖的に発生します。

高温環境下で起きる主な変化

  • シリコーンポリマーの熱酸化劣化
    → 分子鎖の切断や再結合により、粘度が設計値から逸脱する
  • フィラーと基材の界面安定性の低下
    → 表面処理剤の劣化により、分散安定性が低下する
  • 軽質成分のブリードアウト
    → 表面へのオイル分離 → 塗布後の濡れ性低下

これらは短期間では顕在化しにくいものの、数週間〜数か月の高温履歴によって、測定すると確実に性能が変わっているというケースが実務上よく見られます。結果として、

  • 接触熱抵抗の増加
  • 塗布後の広がり量の不安定化
  • 長期通電時の温度上昇増大

といった形で現れます。

★ 低温環境下で起きる主な変化

一方、低温保管も安全とは限りません。

  • 基材粘度の上昇
    → 室温復帰後も完全には元のレオロジー特性に戻らない場合がある
  • フィラー沈降の固定化
    → 低温下では再分散が進みにくく、「撹拌しても戻らない状態」が発生する
  • 凝集構造の形成
    → 微細凝集が残り、塗布面内で熱伝導ムラを生む原因になる

特に冬場の非空調倉庫では、材料が「一晩で別物になっている」ことすらあり得ます。

保管姿勢(沈降対策は熱設計の前提条件)

放熱シリコーンは、多くの場合フィラー充填率が70〜90 wt%レベルに達する高充填系材料です。このため、重力の影響による沈降は「起きないように設計されている」ものの、「ゼロではない」というのが実情です。特に以下の条件が重なると、沈降リスクが急激に高まります。

  • 長期間の静置保管
  • 1kg超〜数kgクラスの大容量容器
  • 横倒しや斜め保管による応力偏り
  • 温度変動の繰り返し(昼夜温度差)

沈降が進行すると、容器内で以下のような層分離が起きます。

  • 上層:フィラー濃度の低い低熱伝導層
  • 下層:フィラー高濃度の高粘度層

この状態で上澄みだけを使用すると、

  • 実効熱伝導率の低下
  • 設計ギャップに対して塗布厚が過大になる
  • ポンプ圧の変動による吐出量ばらつき

といった問題が発生します。重要なのは、未開封=品質保証された状態が起こりえる製品であるという点です。高機能材料ほど、「未開封であっても状態管理が必要」という特性を持っています。

■ 使用期限(Shelf Life)管理

一般的に放熱シリコーンに設定されているShelf Lifeは、単なる「固まらない期限」ではありません。メーカーが保証しているのは、熱伝導率、粘度範囲といった複数の物性パラメータが、規格内に維持されている期間です。つまり、Shelf Life管理とは「材料性能そのものを管理している」という意味を持ちます。

★ Shelf Life超過材で実際に起きるリスク

使用期限を過ぎた材料では、見た目や初期評価では問題がなくても、

  • 粘度は規格内でも分散状態が崩れている
  • 初期の温度測定では差が出ないが、長期通電で温度上昇が増える
  • ロット間で塗布性のばらつきが大きくなる

といった「量産後に効いてくる不具合」が発生することがあります。特に放熱設計では、初期評価OK = 長期信頼性OKではないという点が、現場で最も見落とされがちなポイントです。

★ 安達新産業のShelf Life管理は「材料品質管理の一部」である

安達新産業株式会社では、Shelf Life管理を単なる在庫管理ではなく、材料性能を維持するための品質管理プロセスの一部として位置付けています。具体的には、

  • ロット番号単位でのトレーサビリティ管理
  • 入荷日・出荷日・使用期限のシステム管理
  • 先入先出(FIFO)の徹底運用
  • 長期在庫品の定期的な状態確認
  • 必要に応じた技術情報のフィードバック

といった仕組みを通じて、「お客様の現場に届く時点で、メーカーが保証する物性状態を維持している」ことを前提に出荷管理、在庫管理を行っています。つまり「材料を納める」だけでなく、「性能を保証できる状態で届ける」ことを業務として行っています。特に、放熱シリコーンのような高機能材料では、

  • どの材料を選ぶか    だけでなく
  • どの状態の材料が現場に届くか

が、最終的な製品性能を左右します。安達新産業では、材料を販売して終わりではなく、材料性能が正しく発揮される状態で現場に届けることを重要な付加価値と考えています。

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