非流動性シリコーンの比較――モメンティブ製品選択の実践ガイド

はじめに――「液が流れてしまう」という設計課題
電子機器や自動車部品の組立工程において、接着剤の「垂れ・流れ」は長年にわたる現場の悩みの種です。基板上の部品を固定する際、塗布した接着剤が隣接する回路へ流れ込んでしまった、あるいは傾斜面や垂直面に塗布したところ硬化前に垂れ落ちてしまった――こうした経験をお持ちのエンジニアは少なくないでしょう。
こうした問題を根本から解決するアプローチのひとつが、非流動性(ノンサグ型)シリコーン接着剤の採用です。非流動性という粘度特性の意味と技術的背景を整理したうえで、モメンティブが提供する代表的な3製品――TN8000、TSE3925、TN5015――の特性をTDSに基づいて詳しく比較し、用途別の選定指針を解説します。

1. シリコーン接着剤の粘度分類を整理する
シリコーン系の1成分形室温硬化型(RTV)接着剤は、その流動性によって大きく3つのタイプに分けられます。
① 流動性タイプ(サグ型)
低粘度で流れやすく、狭い隙間への充填やポッティング用途に適しています。一方、塗布位置の精度が求められる用途や垂直面への適用は困難です。TSE3995(2.5 Pa·s)がこのタイプにあたります。
② 半流動性タイプ(セミサグ型)
中程度の粘度を持ち、流動性とペースト性の中間的な挙動を示します。作業性と位置保持の両立が求められる場面で選択されます。TSE3975(33 Pa·s)がこのタイプにあたります。
③ 非流動性タイプ(ノンサグ型)
チクソトロピー性(攪拌・加圧時に粘度が下がり、静置すると粘度が回復する性質)を持つペースト状の製品です。ディスペンサーや手塗りで吐出・塗布は容易である一方、塗布後は自重や重力によってもほとんど変形・流動しません。このため、垂直面・傾斜面への塗布、精密な塗布量管理、隣接部品への汚染防止といった要求に対して高い信頼性を発揮します。
モメンティブの技術資料によれば、縮合型1成分形シリコーンゴムは「グリース状非流動性(ノンサグ型)のものから、半流動性(セミサグ型)、流動性(サグ型)と種々のタイプの製品がある」とされており、用途に応じた製品選択が重要です。
2. 非流動性が求められる代表的な用途シーン
非流動性タイプのシリコーン接着剤が特に有効なシーンを具体的に挙げると、以下のようなケースが代表的です。あくまでAD-Chemiの想定です。
■電気・電子機器の組立
プリント基板上のコンデンサやコネクタの固定では、塗布した接着剤が隣接するパターンやはんだ部へ流れ込むことを防ぐ必要があります。ペースト状の非流動性タイプであれば、塗布した位置でそのまま硬化するため、部品間の絶縁性を確保しながら固定が行えます。
■通信機器・ハイブリッドIC
高密度実装が進む通信機器では、接着剤が精密なパターン上に滲み出ることが致命的な不良につながります。非流動性タイプは塗布径の精密管理が可能であり、自動塗布(ディスペンス)ラインでの安定した品質確保に貢献します。
■自動車照明・車載電装部品
ヘッドランプユニットやECU(電子制御ユニット)の防水・気密シールには、傾斜面や曲面への塗布が求められるケースが多くあります。流れない接着剤であれば、組立後の姿勢変化によるシール材のずれを防ぎます。
■計測機器・防水・防塵シール
電気器具・通信機器・計測機器などの防水、防塵、機密用途においても、塗布した位置に留まる非流動性は信頼性の高いシールを実現します。

3. モメンティブの非流動性シリコーン接着剤 3製品を比較する
ここからは、安達新産業が取り扱うモメンティブの非流動性シリコーン接着剤として代表的な3製品を、各製品(TN8000,TSE3925,TN5015)のTDSデータに基づいて詳しく見ていきます。下記の比較表については共通項目は省いて表示しています。
| 比較項目 | TN8000 | TSE3925 | TN5015 |
| タックフリータイム | 20分 | 5分 | 45分 |
| 引張強さ(Mpa) | 2.2 | 1.6 | 4.6 |
| 伸び | 620% | 350% | 240% |
| せん断接着力強さ | 1.8Mpa | 1.3Mpa | 2.4Mpa |
| 低分子シロキサン | ─ | 0.028wt% | 0.02wt% |
| 熱伝導率 | 0.38w/mk | 0.18w/mk | ─ |
| UL94HB認定 | 〇 | ─ | ─ |
| 難接着材(Zn,Ni等) への対応 | 〇プライマーレス | △プライマー推奨 | △プライマー推奨 |
| プライマーレス 接着の範囲 | ◎ 非常に広範囲 | 〇 プライマーで拡張可 | 〇 プライマーで拡張可 |
3-1. SnapSil™ TN8000 ― 広範な被着体へのプライマーレス接着と速硬化を両立
製品概要
TN8000は、モメンティブのSnapSilシリーズに属する1成分・室温硬化型のアルコキシ縮合硬化型シリコーン接着剤です。非流動性のチクソトロピックペースト状(ホワイト/ブラック/グレー)であり、大気中の湿気と反応して弾性シリコーンゴムへと硬化します。
主な特長
- 難燃性(UL94HB認定):UL 94HB規格に適合しており(File No. E56745)、電気電子機器への使用に必要な安全規格をクリアしています。
- プライマー不要の幅広い接着性
金属(アルミ・ステンレス・銅・軟鋼・亜鉛メッキ・ニッケルメッキ)をはじめ、アクリル・ポリエステル・エポキシ・ポリカーボネート・ABS・PBT・PPS・PET・PPE・フェノール・ナイロン・PVCなど、きわめて幅広い被着体にプライマーなしで接着できます(ポリエチレン・ポリプロピレンを除く)。亜鉛メッキやニッケルメッキといった難接着材へも対応できる点が他製品に対する大きな差別化ポイントです。 - 高伸長率
硬化後の伸びが620%と高く、振動・熱膨張による変形追従性に優れています
3-2. TSE3925 ― 業界最速クラスのタックフリーと低分子シロキサン低減を両立した汎用型
製品概要
TSE3925は、1成分・室温硬化型のアルコールタイプ縮合硬化型接着シール材です。同じシリーズのTSE3975(流動性)、TSE3995(流動性)とは異なり、TSE3925のみが非流動性タイプです。低分子シロキサン低減処方を採用しており、大気中の湿気と反応して耐熱・耐寒性、電気絶縁性、耐候性、耐水性に優れたゴム状弾性体へと硬化します。
主な特長
- 3製品中最速のタックフリータイム(5分)
23℃条件でのタックフリータイムはわずか5分と、3製品の中で最も表面硬化が速いのがTSE3925の最大の特徴です。ラインタクトが短い高速生産工程での採用に特に有利です。 - 低分子シロキサン低減
D3〜D10の揮発性低分子シロキサン含有量を0.028 wt%以下に低減しています。低分子シロキサンは電気接点の接触不良(シリコーン汚染)を引き起こすことが知られており、精密電子部品周辺での使用において信頼性を高めます。 - 高伸長率
硬化後の伸びが350%と高く、振動・熱膨張による変形追従性に優れています。
-3. SnapSil™ TN5015 ― 高強度・高伸長と低分子シロキサン低減を両立した高性能グレード
製品概要
TN5015は、SnapSilシリーズの中でも高強度・低揮発性シロキサンを特徴とする1成分・室温硬化型のアルコールタイプ縮合硬化型シリコーン接着剤です。外観は灰色・非流動性のペースト状であり、大気中の湿気で硬化して弾性シリコーンゴムを形成します。
主な特長
- 3製品中最高の引張強さ(4.6 MPa)と高伸長(240%)
硬化後の引張強さは4.6 MPaと3製品中で際立って高く、振動・衝撃が繰り返し加わる部位でも信頼性の高い接合を維持します。せん断接着強さ(アルミ)も2.4 MPaと高水準です。 - 硬化時の低収縮
硬化収縮が小さく、精密部品の位置ずれや硬化後の残留応力発生を抑制します。寸法精度が求められる高電圧部品やセンサーへの接着に適しています。 - 低分子シロキサン低減
D3〜D10の低分子シロキサン含有量を0.02 wt%以下に低減(社内試験法)。電気接点近傍や精密電子機器における汚染リスクを最小化します。 - 高い電気絶縁性:体積抵抗率4.8×10⁷ MΩ·m、絶縁破壊強さ29 kV/mmの良好な絶縁性能を有します。
- タックフリータイム45分が生む工程上のゆとり
タックフリータイムが45分あることは、一見「硬化が遅い」という制約に見えますが、見方を変えれば大きなメリットになります。塗布後に装置トラブルやライン停止(いわゆるチョコ停)が発生した場合でも、表面が硬化してしまうまでの猶予時間が長いため、部品の位置修正や塗布やり直しといった対処が可能です。
4. 製品選定のポイント――どの製品を選ぶべきか
3製品はいずれも非流動性・非腐食性・室温硬化という共通の基本特性を持ちますが、選定においては以下の軸で考えると整理しやすくなります。
① 生産ラインのサイクルタイムを最優先にしたい → TSE3925
タックフリータイムが5分と3製品中で圧倒的に速いのがTSE3925です。次工程への移行が早く、高速ラインや多量生産工程での採用に最も向いています。同時に低分子シロキサンも低減されており、精密電子機器との親和性も高い製品です。
② 難接着材(亜鉛・ニッケルめっき等)へのプライマーレス接着が必要 → TN8000
TN8000は亜鉛メッキ・ニッケルメッキを含む非常に幅広い被着体に対してプライマーなしで凝集破壊(cohesive failure)を実現します。プライマー工程の省略は工程短縮・コスト削減に直結します。また伸び620%という高い変形追従性と、熱伝導率0.38 W/(m·K)という3製品中最高の放熱性も持ち合わせており、発熱部品周辺での固定・シールにも有効です。UL94HB認定取得製品を必要とする用途でも第一候補となります。
③ 機械的強度と低シロキサンを同時に求める → TN5015
引張強さ4.6 MPa・伸び240%・せん断接着強さ2.4 MPa(アルミ)という物性は3製品中で最もバランスが高く、振動・衝撃・熱変形が繰り返し加わる構造部位での使用に安心感があります。低分子シロキサンも0.02 wt%と低く抑えられており、高強度接着と電気的清潔性の両立が必要な用途に最適です。
また、タックフリータイムが45分という点は、工程によってはむしろ強みになります。TSE3925(5分)やTN8000(20分)では表面硬化が早く進むため、停止が長引いた際に修正が難しくなるリスクがありますが、TN5015-Gであればその心配が少なく、現場での柔軟な対応力が向上します。自動ラインの合間に人手作業が介在する工程や、タクトに一定の余裕がある組立ラインで特にこの特性が活きてきます。
④ 被着体の種類による整理
ポリカーボネート・ABS・PBT・PPSへの接着:TN8000は凝集破壊(○)、TSE3925はプライマー推奨、TN5015-Gは混合破壊(△)。いずれの製品でも事前の接着試験を推奨します。
ポリエチレン・ポリプロピレンへの接着:TN8000・TN5015-GはTDSで接着不可(×)とされています。TSE3925はプライマー(XP80-A5363)の使用でポリプロピレンへの接着が可能(ポリエチレンは△)な場合があります。

まとめ
非流動性(ノンサグ型)シリコーン接着剤は、チクソトロピック性を活かして「塗った場所に留まる」という特性により、電子機器・通信機器・自動車電装部品の組立において、接着精度の向上・隣接部品への汚染防止・傾斜面シールの信頼性確保という形で実用的な価値を提供します。
モメンティブの3製品を選定視点でまとめると次のとおりです。
TN8000は、プライマーレスで接着できる被着体の幅広さ(難接着材含む)・速硬化(タックフリー20分)・UL94HB認定・高い放熱性(熱伝導率0.38 W/(m·K))・高伸長(620%)が強みです。被着体の種類が多様で、認証要件が存在し、サイクルタイムも重視する用途の第一候補となります。
TSE3925は、業界最速クラスのタックフリータイム(5分)と低分子シロキサン低減処方の組み合わせが際立ちます。高速生産ラインで精密電子機器向けに使用する場合に最も適した選択肢です。
TN5015-Gは、引張強さ4.6 MPa・せん断接着強さ2.4 MPa(アルミ)という高い機械的強度と低分子シロキサン0.02 wt%という高い電気的清潔性を両立した製品です。振動・衝撃が加わる構造部位や高電圧部品周辺での使用に信頼性をもたらします。
用途・被着体・認証要件・工程タクトを整理したうえで適切な製品を選択することで、設計品質の向上と製造工程の最適化が実現できます。
製品の選定相談・サンプル請求・技術的なお問い合わせは、安達新産業株式会社(モメンティブ特約店)までお気軽にご連絡ください。


