シリコーングリース・オイルコンパウンドの基礎知識と正しい選び方

電子機器、自動車部品、産業機械など、あらゆる分野で使われている「シリコーングリース」と「オイルコンパウンド」。厳密には増ちょう剤の有無や配合設計といった定義上の違いがあるものの、実際の市場やカタログでは両者がほぼ同じような性質・用途の製品として扱われ、呼称が明確に使い分けられていないケースも少なくありません。しかし現場では、こうした呼び分けの曖昧さも相まって「とりあえずシリコーン系だから」という理由で選定されてしまい、後になって油分の染み出し(ブリード)による接点不良や、樹脂部品の劣化といったトラブルに発展するケースも見受けられます。
シリコーン材料は、ジメチルポリシロキサンを主骨格とする有機ケイ素化合物であり、耐熱性・耐寒性・電気絶縁性・化学的安定性に優れています。これらの特性を活かしてグリースやコンパウンドとして製品化されていますが、増ちょう剤の有無や配合フィラーの種類によって、放熱用途、絶縁用途、潤滑用途、防水・防塵用途など、適用範囲が大きく変わってきます。
シリコーングリースとオイルコンパウンドの基本的な化学構造の違いから、用途別の選定ポイント、そして現場で起こりやすいトラブル事例とその対策まで、技術者・エンジニアの皆様が実務で判断材料として活用できるレベルまで踏み込んで解説します。設計段階での材料選定や、既存製品でのトラブルシューティングの一助となれば幸いです。
第1章:シリコーングリースの基本構造と特性
1-1. シリコーングリースの構成
シリコーングリースは、大きく分けて「ベースオイル」と「増ちょう剤」の2つの要素から成り立っています。
ベースオイル:
ジメチルポリシロキサンをはじめとするシリコーンオイルが用いられます。分子量や側鎖構造(メチル基、フェニル基など)によって粘度や耐熱性、低温流動性が調整されます。
増ちょう剤(ちょう化剤):
微粉末シリカ(無機系)や金属石けん、有機系増ちょう剤などが用いられ、オイルを半固体状(グリース状)に保持する役割を果たします。
この増ちょう剤の種類・添加量によって、ちょう度(グリースの硬さの指標)が決まり、用途に応じた使い分けが可能になります。
1-2. シリコーングリース特有の物性
一般的な鉱物油系グリースと比較して、シリコーングリースには以下のような特長があります。
👉広い温度使用範囲
多くの製品で-40℃~200℃程度の範囲で安定した性能を発揮し、耐熱グレードでは250℃を超える製品もあります。
👉優れた電気絶縁性
体積抵抗率が高く、高電圧機器や電子部品の絶縁・防湿用途に適しています。
👉化学的安定性
酸化劣化しにくく、長期間にわたって性能が安定しています。
👉低い蒸気圧:
真空環境下でも揮発しにくいため、真空機器のシール剤としても使用されます。
👉撥水性・離型性:
表面張力が低く、水を弾く性質があるため、防水シールや離型剤としても機能します。
一方で、シリコーンオイル特有の「オイルブリード(分離・滲み出し)」という現象があり、これが後述するトラブルの原因になることがあるため注意が必要です。

第2章:オイルコンパウンドとは?グリースとの違い
2-1. オイルコンパウンドの定義
オイルコンパウンドは、シリコーングリースと同様にシリコーンオイルをベースとしていますが、増ちょう剤による半固体化を行わない、あるいは異なる手法でペースト状・ゲル状に調整された製品を指すことが一般的です。製品によっては、シリコーンオイルにシリカなどの微粉末フィラーを分散させ、糸を引くような独特の粘稠性(タック性)を持たせたものもあります。
グリースが「油を保持する固体的な骨格」を持つのに対し、オイルコンパウンドは「オイルそのものの物性を活かしつつ、扱いやすい粘度に調整した」製品と捉えると理解しやすいでしょう。
2-2. 主な違いの整理
| 項目 | シリコーングリース | オイルコンパウンド |
| 主構成 | ベースオイル+増ちょう剤 | ベースオイル+フィラー |
| 形状 | 半固体・ペースト状 | ペースト~ゲル状 ※タック性が高いものも |
| 用途 | 潤滑、放熱、絶縁 | コネクタ端子保護、電子部品の絶縁保護 |
| 流動性 | 比較的低い | 製品により幅広い |
| 代表的な適用先 | 軸受け、ギア、Oリング | コネクタ内部、ケーブル接続部電子基板の保護 |
2-3. 使い分けの考え方
実務では、「動く部品同士の潤滑」が目的であればグリース、「隙間を埋めて防水・防湿・絶縁する」ことが目的であればオイルコンパウンドを選定する、という切り分けが基本になります。ただし製品によって配合設計は大きく異なるため、カタログスペック(ちょう度、粘度、耐熱温度、体積抵抗率など)を必ず確認し、可能であれば実機評価で適合性を検証することが推奨されます。
2-3. 使い分けの考え方
実務では、「動く部品同士の潤滑」が目的であればグリース、「隙間を埋めて防水・防湿・絶縁する」ことが目的であればオイルコンパウンドを選定する、という切り分けが基本になります。ただし製品によって配合設計は大きく異なるため、カタログスペック(ちょう度、粘度、耐熱温度、体積抵抗率など)を必ず確認し、可能であれば実機評価で適合性を検証することが推奨されます。
第3章:用途別選定のポイント
3-1. 放熱用途(熱伝導グリース)
パワー半導体やLED、CPUなどの発熱部品と放熱フィンの間に塗布し、界面の熱抵抗を低減する目的で使用されます。この用途では、酸化アルミニウムや窒化ホウ素などの熱伝導性フィラーを高充填したグリースが選定されます。選定時のポイントは以下の通りです。
- 熱伝導率(W/m・K):数値が高いほど放熱性能は向上しますが、粘度が上がり塗布性が低下するトレードオフがあります。
- オイルブリード量:長期使用時に染み出したオイルが周辺の電子部品や接点に付着するリスクがあるため、低ブリードタイプの選定が重要です。
- ポンプアウト現象への耐性:熱サイクルによってグリースが接合面から押し出される現象で、放熱性能の経時劣化につながります。
3-2. 電気絶縁用途
高電圧機器のコネクタ部やモーター端子部などでは、絶縁性と防湿性を両立するグリース・コンパウンドが用いられます。体積抵抗率や絶縁破壊電圧のスペックに加え、金属腐食性の有無(特に銅・銀に対する腐食性)も確認すべき重要な項目です。
3-3. 潤滑用途
ギア、軸受、O-リングなどの摺動部・シール部では、ちょう度(NLGIグレード)と耐荷重性、そして相手材との適合性が選定の軸になります。特にゴム・樹脂部品と接触する場合、シリコーンオイルが相手材を膨潤させたり、逆に可塑剤を抽出して収縮・硬化を招いたりすることがあるため、事前の適合性確認が不可欠です。
3-4. 防水・防塵シール用途
コネクタの防水パッキンやケーブル接続部の保護には、タック性が高く、隙間への充填性に優れたオイルコンパウンドが適しています。ここでは低温での硬化・流動性低下がないか、また長期使用時の油分分離による外観・機能変化がないかを確認することが重要です。

第4章:使用上の注意点とトラブル事例
4-1. シリコーンオイルブリードによるコンタミネーション
シリコーングリース・オイルコンパウンドの代表的なトラブルとして、ベースオイルが周囲に拡散する「ブリード(染み出し)」現象があります。特に電子機器業界では、以下のような問題が報告されています。
電気接点の導通不良:
ブリードしたシリコーンオイルが微量でも電気接点に付着すると、通電時のアーク熱で炭化し、絶縁性の高いシリカ皮膜(いわゆるシリコーン起因の接点障害)を形成し、接触不良を引き起こすことがあります。
塗装・印刷面のハジキ:
揮発したシリコーン成分が近隣部品の表面に付着し、後工程の塗装や印刷の際にハジキ(レベリング不良)を引き起こすケースがあります。
光学部品への付着:
レンズやミラーなどの光学面に付着すると、透過率や反射率の低下を招くことがあります。
これらのリスクを避けるためには、低ブリードタイプの製品を選定するとともに、電気接点や光学部品の近傍での使用を避ける、あるいは適切な隔離・シール設計を行うことが重要です。
4-2. 相手材料との適合性
シリコーンオイルは多くのゴム・樹脂材料と接触した際に、膨潤・軟化・収縮・ひび割れといった影響を及ぼすことがあります。特に以下の材料との組み合わせでは事前確認が推奨されます。
- ポリカーボネート(PC):油分によりクラック(ケミカルクラック)が発生する場合がある
- ABS樹脂:表面が白化・軟化する場合がある
- 一部のゴム材料(EPDM等):シリコーンオイルとの相性は比較的良好だが、配合添加剤によっては影響を受ける場合がある
材料メーカーが提供する耐薬品性データや、実機を用いた浸漬試験・接触試験による事前確認が、トラブル未然防止の基本となります。
4-3. 保管・取り扱い上の注意
- 異種グリースとの混合禁止:増ちょう剤の種類が異なるグリース同士を混合すると、稠度が変化し性能が不安定になることがあります。
- 保管温度・保管期間の管理:極端な高温・低温環境での長期保管は、オイルと増ちょう剤の分離(離油)を促進させる要因になります。
- 適正塗布量の順守:過剰な塗布はブリードやポンプアウトのリスクを高めるため、メーカー推奨量を守ることが重要です。
まとめ
シリコーングリースとオイルコンパウンドは、いずれもシリコーンオイルをベースとしながら、増ちょう剤の有無や配合設計によって適用用途が大きく異なる材料です。放熱、絶縁、潤滑、防水・防塵といった用途ごとに求められる特性は異なり、単に「シリコーン系だから」という理由で選定すると、オイルブリードによる接点不良や相手材料との非適合といったトラブルにつながりかねません。
材料選定にあたっては、カタログスペック(ちょう度・粘度・熱伝導率・体積抵抗率・耐熱温度など)の確認に加え、実機環境を想定した適合性評価を行うことが、長期信頼性を確保する上で欠かせません。用途に応じた最適な製品選定により、機器の性能維持とトラブル未然防止の両立を図っていただければと思います。
なお、ここまで解説してきた「グリース」と「オイルコンパウンド」の違いは、あくまで増ちょう剤の有無や配合設計といった厳密な定義上の区分です。実際の市場やカタログでは、両者がほぼ同じような性質・用途の製品として扱われ、呼称が明確に使い分けられていないケースも少なくありません。そのため実務上は、名称だけで判断せず、本記事で紹介したちょう度・粘度・熱伝導率といった個々のスペックを確認した上で選定することが、より確実な材料選びにつながります。
弊社で取り扱うモメンティブ社のシリコーン材料についても、用途に応じた製品ラインナップをご用意しております。選定にお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。


